アナリストに聞く製薬業界の動向(下)―酒井文義氏(クレディ・スイス証券医薬品シニア・アナリスト)(医療介護CBニュース)

―最近、大日本住友製薬や塩野義製薬には、米国の企業の買収で自社販売拠点をつくるという動きがありますが、どう評価されていますか。

 うまくいけばそれなりのリターンはありますが、今のところリスクが先行しています。塩野義が買収した米サイエル社(現シオノギファーマ)も、業績の足を引っ張りつつある状況です。大日本住友は自社の売り上げ規模に匹敵する米セプラコール社を買収して、なおかつ2000億円のファイナンスも付いてくるので、ストレッチしてしまっています。まさしく社運を賭してというイメージです。

 では今、米国に出て行くのはいいのかどうかということですが、米国か新興国のどちらに行くかを想定して、例えば新興国に行ったとします。新興国は一つではなく、インドもあれば中国、ブラジルもあります。各国で医療制度、医療習慣は全然違うので、そこで米国で得られるのと同等の利益を上げようとすると、相当の投資と人材、ノウハウが必要になります。では、中国一国で米国のマイナス分をカバーできるかというと、例えば患者が多くいるといわれているB型、C型肝炎で勝負を懸けようとすれば、もうかるかもしれませんが、これは継続性がありません。米国のメリットは、新薬の開発が非常にスムーズにできることです。そこでまず米国に開発拠点を置き、それに併せてマーケティング拠点を持つという流れを考えると、準大手が米国に軸足を置こうとすることは理解できますが、パートナー選びが果たしてどうなのかということです。

―後発品メーカーの見通しはどうでしょう。

 結局、日本も最終的に後発品は「安ければいい」という話になってこざるを得ないと思います。高い後発品に何の意味があるのかということです。今、後発品メーカーがなぜ利益を上げているかというと、価格を高くして利益を稼げる時間を長くすることで、彼らの新製品の残存期間を長くしているからです。これは当たり前の経済行為ですが、医療財政を考えれば、ブランド品の特許が切れた時に、その8割くらいの値段の安い後発品が出てくればいいわけですよね。やはり後発品も価格を下げられるという時代が来るのではないかと思います。
 では、後発品メーカーはもっとコストを絞るのか、それとも違う業態に転換していくのか。ただ、違う業態に転換する場合は、何ができるのかという問題があります。例えば、ランバクシーなどは新薬に手を伸ばそうとしていますよね。ただ、日本の後発品メーカーにそこまでの体力があるとも思えません。
 後発品メーカーは「インセンティブ」の話が出てくる年には市場で注目されます。政府の利用促進策で2012年に数量目標30%という目標が掲げられていますが、これに向けて今回は最後のインセンティブが導入されました。この中では、例えば剤形の処方変更が可能というものがありました。そうすると今まで1日1錠だった先発品を、数量30%の確保のために1日2錠の後発品に変えることもあり得ます。後発品からさらに安い後発品へ切り替えるケースも出てくるでしょう。そうすると後発品の価格がすごく下がってくる可能性が出てきます。いろいろな意味で後発品もこれからは価格競争などにさらされてくる可能性はあるのではないでしょうか。

―大手、準大手以外の新薬メーカーはどうですか。

 厳しい言い方ですが、彼らが何を担っているのかと考えると、誰かが1社でやってもいいではないかという話になってきます。ただ、大手、準大手の下の企業は創業者経営など、資本の論理がなかなか通らないこともあります。そうなると再編は難しいということになります。

 赤字を計上している製薬企業は日本にありません。薬価は公共事業みたいなもので、年7兆円の利益をどう山分けするかという世界が生じていました。ただ、財政の問題、新薬に対するニーズの変化、グローバル競争の進展があり、そうした環境ではなくなってきています。一方で、欧米の大手製薬企業の経営者は、それなりに日本市場に注目しています。日本は7兆円規模の世界第2位の市場があり、高齢化が進んでいるという事情もあります。また、患者や大病院がどちらかというと都市部に集中しており、医療の効率がいい。制度改革についても「日本は厳しい」との声もありますが、比較的ゆっくりしたテンポで、既存の制度に上乗せされる形で実施されます。フランスなどのように、後発品を使わせるため、制度が短期間でがらりと変わることはありません。これらを踏まえると、中堅どころは米国ばかりに目を向けるのではなく、国内市場も大切にしていかないといけないと思います。中堅より小さい企業は合従連衡しないとどうしようもないのではないでしょうか。

―一番いいなという企業はどこでしょう。

 いろいろな意味でよくなったのは中外製薬です。ロシュとの合併でいろいろな不確定要素があったり、新型インフルエンザの影響でタミフルが上下に振れたり、期待されていた抗がん剤アバスチンが、発売してもなかなか伸びなかったりで、業績に対する見通しが不安定でしたが、結果的にはすべてがうまくいきました。
 見方は分かれると思いますが、大手4社については長期的に見れば、エーザイが取り組んでいるアルツハイマー型認知症の部分に注目しています。日本では高齢化が進み、じわりじわりと患者が増えてきますが、米国では第二次ベビーブーマー世代が60代に突入し、おそらく爆発的なアルツハイマーのケアニーズが出てくると思います。そこに軸足を置き、何か新薬が出てくれば、やはり大きいと思います。

―厳しい話題が多かったのですが、何か明るい兆しはありますか。

 この業界は新薬が出ていくらの世界です。06-09年と比較すると、10-13年は数多くの新薬が出てきます。この10-13年で出てくる新薬がどのくらい利益貢献できるかがポイント。各社のキーになる製品が出てきます。
 例えば、協和発酵キリンで言えば抗がん剤KW-0761。武田薬品は海外で腎性貧血薬のヘマタイド。それから国内では不眠症治療薬ロゼレム、抗がん剤ベクティビックス、糖尿病治療薬ネシーナが出てきます。国内では多分、ロゼレムは売れると思います。DPP-4阻害薬のネシーナも売れると思いますが、先行している1成分2剤、ジャヌビアとグラクティブがかなり価格でたたき合っているという話もあるし、ノバルティスからもエクアが出てきています。その他の糖尿病治療薬ではGLP-1受容体作動薬も出て、少し混雑しているかなという印象ですね。いずれにせよ、米国で自社販売するアログリプチン(SYR-322、日本名はネシーナ)と、高血圧症治療薬(アンジオテンシン2受容体拮抗薬=ARB)ブロプレスの後継品 のTAK-491がどのくらい貢献するかがポイントですね。アステラスは中型品でいろいろ導入していますが、国内品が結構売り上げを伸ばし、目を引いています。今年は喘息治療薬のシムビコートも出るなど、スポットですが新薬が出ているので、この辺が収益の下支えにどこまでなるか。
 それから準大手の塩野義、大日本住友、田辺三菱製薬などが、国内向け中心ですが、新薬でどのくらい利益を伸ばせるかがポイントです。


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